VOL.2_newa/KUGGディレクター | 久野僚太

「CRAFT journal」では、志を共に生活を豊かにするための「一部」あるいは「背景」を生み出すクリエイターの方々を訪ねます。

Vol.2 は、領域間を漂流するデザインスタジオ「rui ef」主宰、日本のクラフトマンシップを背景に、猫と人の間を満たす"newa(ネワ)"や、時間や香り、人の手による予測不可能性を探る"KUGG(クグ)"のディレクター・久野僚太さんに話を伺いました。0 STOCK TOKYOの衣服に袖を通した久野さんと、ものづくりの背景にある境界を繋ぐ"媒体"について、言葉を交わします。

_作家さんの作品と工業製品の間に位置する、暖かい"ブレ"が宿るクラフト
久野さんが手がけるブランド"newa"は、猫と人の間を満たすことをテーマに2年前にスタートした。最初に生まれたのは、木製の台座に陶器がはまったフードボウル"Nodding Bowl"。

木製の台座は、広葉樹が豊富な飛騨高山のサクラ、ナラ、クリなど、山で出会える樹種を職人さんが手で加工したもの。器や台座の信楽焼には、400万年〜43万年前の古琵琶湖層から採れる稀少な土を使用。温かみのある陶器の質感と、磁器の強度を兼ね備える。ざらりとした質感により、器を斜めに傾けてもボウルが滑りにくい。

「猫用のブランドは、多くが企業製の機能的で均一なプロダクトで、そこに情緒を求めると作家さんの一点ものなどに行き着きます。その中間に位置する合いの子のようなものが作れないか、とずっと考えていました。木目の個性や手旋盤によるわずかなブレなど、機能美の中に人間らしいノイズが残るものを作りたい。そんな気持ちがあります」

猫は人間と違い、重力に逆らって喉の力で食道へと食べ物を運ぶ。"Nodding Bowl"は高齢の猫でも健やかに食事ができるよう、高さを持たせ、底面を丸くしてフードが中心に集まる設計になっている。

「実際に使っていただいた方から『食べ残しが減った』『食欲が増した』という声を予想以上にいただき、驚きつつも嬉しかったです。猫と人にとっての自然を、プロダクトを通して見つめていきます」

同じくnewaの"Nesting Brush"も、用の美を追求した道具。馬毛やタンピコ麻といった天然繊維を使い、ブラッシングだけでなくマッサージ効果も生み出す。

ケースも含めて空間に溶け込むオブジェのようなブラシは、毛だらけのままを放置したくはないけど、すぐに使いたい気持ちを叶えてくれる。ブラシの毛の交換可能な設計により、永く使えるクラフトを生み出し続けている。

_小ロットならではの、純度の高いものづくり
久野さんが展開するもう一つのブランド"KUGG"では、兵庫県高砂の地で1億年の歳月を経た竜山石を用い、時間という壮大な概念にアプローチする。宇宙史、地球史、人類史という途方もない時間。そして、それを使う私たちの個人史と、今も流れている時間。重厚感のある時計を持ってみると、スケールの異なるそれぞれの時間が、時を刻む針に流れていた。

「既存の時計は、どうしても社会的な役割を強く帯びています。時刻を正確に示すという機能が前提にあるため、時計という記号から離れられません。時間の根本に流れている、もっと曖昧で神秘的な、大きな流れを感じられる時計を作りたいというのがきっかけです」

同じくKUGGのエッセンシャルオイルブレンドは、ベルリンと東京を拠点とする香りのデザインスタジオAOIROと開発した香りを、2つに割った竜山石の石柱の断面に染み込ませる仕掛け。

「ブランディングの仕事では、市場とクライアントの間に点を定めてから意図と導線を張り巡らせる、言わばシネマ的なものづくりです。自分のブランドでは着地点を点で縛らず、面のような予測不可能性を許容したいんです」

KUGGは、小ロットだからこそ生まれるノイズや揺らぎまでを受け入れる、ドキュメンタリー的なものづくりの実験でもある。

_グラフィックからプロダクトへ。境界を繋ぐ「媒体」としての歩み
元々はグラフィックや出版物のエディトリアルデザイナーとしてキャリアをスタートし、現在も企業のブランディングやアートディレクションを手がける久野さん。グラフィックと立体的なデザイン、そして衣服は全く異なる領域に思えるが、彼の中では一本の線で繋がる。

「根底には、"媒体"を作っているという意識があります。ここでいう媒体とは、単に情報を伝えるものではなく、概念と人、もの、社会のあいだに関係を生むものです。グラフィックであれば、企業やブランドの思想を、タイポグラフィの歴史や文化的文脈を通して、社会や市場との接点に変えていく。一方でプロダクトであれば、素材や職人さんの手仕事、その土地が持つ歴史的背景、道具を使う人の手、人間と異なる猫の身体感覚までもが、ひとつながりになるように形を考えます。概念と身体、主観と客観、ミクロとマクロ、素材と社会。そうした異なる要素が交わるハブのような存在となる、必然性のある形を作りたいと思っています」

衣服についても独自の感覚を持つ久野さんは、肩の力が抜けた自然な存在感と、細部に宿る緊張感が矛盾なく共存する服に惹かれるという。ただ、世界中の巨大ブランドが努力するサステナビリティの構造に限界も見えていて、必要なものや衣服、地球環境が先にあって、それをどう供給するか、というものづくりの姿勢を探っていた。

_納期を持たない、嘘をつかないサステナビリティ
久野さんの考えは、0 STOCK TOKYOの完全受注生産、在庫を持たないスキームと一致する。私たちもまた、数多くのブランドのOEMに携わる中で、余剰在庫が大量に焼却処分されるサイクルを変えたいと感じていました。私たちのような小さなブランドが、"絶対に嘘をつかないサステナビリティ"の形を考えたとき。納期を定めず工場が縫いたい時に縫ってもらう、職人さんの永続性を優先する方法に辿り着きました。

「いつ届くかわからないからこそ、お客さんが待つ時間を裏切れないですよね。時代性を起点とするのではなく、職人さんの手仕事や技術が宿る圧倒的な密度と、その仕組み自体が持つ強い求心力があれば、本当に必要な人にだけ届けるというスキームが現実になってくると思います。そして、この仕組みが新しいフォーマットの選択肢として広がっていけば、世界はもっと良くなるのではないでしょうか」

久野さんはそう語ってくれた。

_17hours seriesと猫との暮らし
この日久野さんが履いていたのは、寝る時以外を快適に過ごせる0 STOCK TOKYOの17hours seriesのワイドパンツ。

「太さがあるのに、すーっと縦に落ちるところに魅力を感じました。私は日本人体型なのですが、シルエットが綺麗で足が長く見える。それでいて可動域が広いから動きやすい。これならずっと履いていられます」

綺麗な縦落ちと快適性を支えているのは、世界的な生地加工技術を持つ石川県の工場で開発された、複合繊維ポリエステルの特殊生地。遠目にはミニマルかつフォーマル感がありながら、近くで見ると有機的な凹凸があり、化学繊維の無機質さを感じさせない。

「薄手なのに、強度がある。実は着用時に猫に襲われたことがあるんですけど、服は無事でした(笑)。もし糸が飛び出しても、組織上ハサミで切ってしまえば解けないのも助かります。それに、猫の毛がついてもパッと払うだけで綺麗に取れます。猫と暮らす私にとって、ケアの容易さとタフさは頼もしいです」

_身体性と素材が生み出す、予期せぬ化学反応を信じて
太陽が傾き、オレンジがかってきた頃。さらなる領域を漂流することで生まれる予測不可能な変化に、久野さんは穏やかな声で期待を寄せた。

「これまでは2つのブランドで木や石、陶器やテキスタイルと関わってきましたが、今後はさらに違う領域の方々と出会うことで、自分でも予想だにしない化学反応を見たいです。手作業によって一回性の暖かいブレが生まれるように、人間同士のインスピレーションのかけ算をさらに生み出しながら、ブランドを続けていきたいですね」

私たちも、衣服の終着点にある素材を、クリエイティブの力で完全に蘇らせる。そんな遊び心のあるものづくりに、いつか挑戦したい。

効率を最優先する世界から、少しだけ距離をとってみる。職人さんの誠実な手仕事にリスペクトを払い、モノと過ごす長い時間そのものを愛おしむこと。久野さんの生み出す有機的で持続的なプロダクトと、0 STOCK TOKYOの嘘のないサステナブル。二つのクラフトが交錯した空間には、これからの時代に根を張って生きるための、確かなヒントが流れていた。

ミクロとマクロの視点から見えるものごとを、媒体を通して一つに結ぶ。久野さんの思考を通して、クラフトマンシップの果てのない可能性を見つめることができました。多くのプロジェクトを同時に進行される中お時間をいただき、本当にありがとうございました。

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久野僚太/ひさのりょうた

武蔵野美術大学卒。デザイナー、アートディレクター。2025年より「rui ef」主宰。グラフィック、エディトリアル、プロダクトなどを横断して活動。マーチャンダイザー/キュレーターの久野千晶とともに、身体に刻まれた感覚や時間の流れをオブジェクトを通して探るプロジェクト「KUGG」、猫と人の間を満たすプロダクトブランド「newa」を手がける。

https://kugg.jp/

https://newa-cat.com/